初恋

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ーーーー ………そういう経緯で今に至るわけだけど 「ーー私からの挨拶は以上になりますが、これから皆さんの華々しい活躍に期待しています」 あ… ヤバい。物思いに耽っていたら挨拶終わっちゃってた 壇上で前方を見ながら話していた春宮さんが、チラリとこちらに目を向ける 私は気恥ずかしくなりながらも、一応会釈してみせた だけど春宮さんはすぐにふいっと視線を外し、その場を後にした …まあ、そりゃそうだよね ただの一社員だしね その後、それぞれに辞令が交付される 私と七瀬は偶然にも同じ企画部に配属された 「やったね千暁」 「うん…」 営業系だったらどうしようかと悩んでいたけど良かった… ーーー無事に式を終えて今後の研修の流れを聞き、明日からの出社についての説明を受けた後今日のところは帰る運びとなった 少し緊張がほぐれ肩の荷が降りた私は安堵のため息を漏らしながら帰り支度を始める 「ごめん千暁、ちょっとお手洗いに行ってくるね」 「あ、うん」 会社を出る前に七瀬がお手洗いへと向かったので、私は一人オフィスのロビーの端っこで立ち尽くしていた すると目の前で、一人の男性が外に出ようとエントランスに向かう途中 私の姿を確認してこちらへ歩み寄ってきた 「……今日から?」 吸い込まれそうな黒い瞳が、少しだけ前髪で隠れている 頭から爪先まで、全身に妖艶な雰囲気を纏ったその男性は私に尋ねる 「あ…はい!本日から入社しました和島千暁です!よろしくお願いします!」 雰囲気に呑まれないよう、ハキハキと大きく返事をした私に男性は目を大きく見開き呟いた 「……和島千暁」 「え、あっ…はい…」 「そうか…」 男性は暫く立ち止まったまま固まり動かない 「あの…大丈夫ですか?」 「………あ、ああ!ごめん。気にしないでくれ」 「一つだけ訊いていいかな」 「なんでしょうか」 「年上好き?」 「…… え??」 いきなり何?? 「ごめん冗談。明日からよろしくな」 揶揄われたのだろうか、男性は微笑みながらそう言った 「お待たせー…あっ、すみません!」 トイレから戻ってきた七瀬を見て、男性はスッと私から離れていく 「名前聞いてもいいでしょうか!?」 私が男性に尋ねると、男性は振り返らずに答えた 「景井だ。よろしく」
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