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「歌って、なに? 誰も歌ってないけど……」
「いや、それは無いだろ。 だってさっきからずっと……」
俺は歌の発信源とおぼしき神の柱を指差す。
その直後、異様な痛みが肉体を走った。
「うぐっ!? かはっ……!」
気を失いそうな程の痛みに心臓が襲われ、俺はしゃがんで胸を抑える。
「六花……? ちょっとどうしたの! 胸が痛いの?」
なんだこの痛み、なんかの病気……。
「おい、あそこに誰かが浮いてるぞ!」
「つ、翼が生えてる? まさかあれは……天使?」
「本当だわ! 神の柱の前で天使様が姿を現してくれたのね!」
天使だと?
俺と咲は顔を見合せ、痛む心臓に耐えながら立ち上がる。
そして目線を上げたそこには、誰の目から見ても天使としか形容しようがない女がこちらを見下ろしていた。
「あれが……天使、なの?」
「…………あいつが歌を……歌ってるのか」
どうやら俺以外には天使の歌声が聴こえていないらしく、皆天使を崇めている。
だが俺は彼らとは違い、天使に嫌な予感がした。
「なに、六花? いきなり手を繋いできて。 優しくされてわたしに惚れちゃった? ……六花、ほんとにどうしたの。 手、震えてるけど……」
「……わからない。 わからないけど、なんか……」
何故かは解らないが、俺の手が震えている。
天使に対する悪寒なのか。
それとも神の遣いが言っていた、審判の日を思い出したからなのか。
俺の心は恐怖心に支配されかけていた。
その恐怖心はどうやら間違いではなかったらしい。
残念ながら。
「なんかずっと背筋が寒くて…………って、なんだあれ。 神の柱が光って…………くそっ、まずい!」
「きゃっ! なんなの、六花! 急に抱き寄せるなんて!」
唐突に光り輝きだした尖塔を見て、俺は咄嗟に咲を抱き締めた。
明らかにヤバい状況になりつつあると感じ取ったのだ。
「な、なんだあれ。 神の柱が……動いてる?」
そう、今までうんともすんとも言わなかった神の柱が突如起動したのだ。
リングが忙しなく動き、レールが交差している中心に集まっていく。
そしてそれが重なった次の瞬間。
目を疑う光景が広がったのである。
「主神に幸あれ。 未来に幸福あれ。 さあ始めましょう、世界再生の義を」
「今、天使様が喋って…………え……」
グチャッ。
「ッ! 見るな、咲!」
「なにが? いきなりどうし…………き、きゃああああ!」
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