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指切りの約束
僕は子供のときから本を読むのが好きだった。小学校では、休み時間になると直ちに校庭へ走ってゆく学友たちとは違い、教室の片隅で読書をしているような男児だった。
当然、女子の奇異な視線が刺さる。彼女等は僕を窺いながらひそひそと声を潜めて会話し、時おり不快な笑い声をたてた。下品でみっともない集団は、気が済むと残り少ない休み時間で揃ってお手洗いに行く。
一階の教室の目の前はすぐに校庭で、サッカーを楽しむ男子たちが見えた。もうじき算数の授業が始まるというのに、一向に教室へ戻ってくる気配がない。僕は机に片肘をついてその光景を眺め、一人の男子児童を目で追いかけた。
彼は僕の隣の席にいる来栖あきらというやつで、普段はこうして他の男子児童と校庭で活発に躰を動かしている。来栖はこんな僕にでも話しかけてくれる、唯一の友達と言ってもよかった。お調子者でふざけたところがあるが、皆に好かれていた。勿論、僕も例外ではない。彼は僕の目を惹き、本を読むことさえ忘れさせた。
「今度は何の小説読んでるの?」
次の休み時間、来栖は珍しく教室に残り、僕の手許から本を抜きとった。彼は大きく開いた脚に肘をついて、頁をパラパラとめくる。なんのことはない児童向けの小説だ。来栖は一通り目を通すと、にんまりと口角を上げる。
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