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「犬が喋って事件を解決するなんて、面白そうそうじゃん。次貸してよ」
意外な言葉だった。他の男子なら、きっと「つまんねえ」とか「読めるかよ、こんなもん」とか悪態をついてくるのに、彼は「面白そう」だと言ってくれた。僕が来栖を見つめて呆然としていると、肩をバンバンと叩かれる。
「なんだよ、俺だって本くらい読むんだぜ? な、次貸すって約束な」
来栖が小指を差しだしたので、僕も小指を輪にして指切りをする。小指同士が触れただけなのに、僕は心を踊らせ、躰を冷ましに宇宙にまで行ってしまいそうだった。
その日を境に、僕が新しく本を読んでいると来栖が借りにくるという流れができた。凄いのは、彼がちゃんと読んでいることだ。返されるとき、来栖は決まって感想を述べる。「これ続編ないのか? めちゃくちゃ面白かった!」と鼻息を荒くするときもあれば、「爺ちゃん、最後に死んじゃって可哀想だったな」と涙ぐむときもあった。
僕はそんなふうに共感してくれる来栖がすっかり好きになり、自分のためではなく彼のために毎日図書館へ通うようになった。どの作品を読めば喜んでくれるのか、悲しんでくれるのか、驚いてくれるのか。そんな幸福な日々が小学校を卒業するまで続いた。
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