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次の日の朝早くまたもや亜子の部屋を訪れる。
朝も夜も訪ねて来ているのでやっぱり亜子の部屋にいる方が長いのではないかという疑問が尽きない。
でも今日は平日だから、きちんと亜子を起こして朝ご飯を食わせないといけないので仕方ないのだ。もちろん休日は休日で来るのだけど。
亜子は昨日とまるで同じ形で床の上で寝ていた。寝起きの悪い亜子をいつもの要領で揺さぶり起こす。
「ちゃんと寝てたのか、偉いな。でもベッドで寝てたらもっと偉かったな」
眠そうに目を擦る亜子を一応褒めておく。でも小言も忘れずに。冬になったらどうなることやら。
「涼太、二兎を追う者は一兎をも得ずって知ってるかな?」
「使いどころが違うだろ」
軽口を叩き合いながら亜子には着替えてくるように言いつける。
その間に亜子の両親から譲り受けたホットサンドメーカーを棚から取り出してセットする。
これから寒くなるにつれ重宝するだろうから、これを持って行けと渡してきた亜子の両親の慧眼は素晴らしい。
八枚切りの食パンを一枚置いてその上にマヨネーズを少量絞り、厚切りのハムとチーズを置く。その上からもう一枚食パンを重ねる。同時に二つ焼けるので、もう一つは昨日余ったツナとコーンをマヨで和えてから置き、食パンを重ねる。
蓋をグイグイと閉めてこれまた昨日余ったトマトスープを鍋ごと冷蔵庫から取り出して温める。
そうこうしているうちに着替えた亜子が戻って来た。
髪は寝癖のままだけど、まあ愛嬌があっていいということにしておく。幼馴染の贔屓目かもしれないが。
「ホットサンド!あったかい!すき!」
「はいはい、座れってば」
朝から興奮する亜子を宥めながら、焼き上がったホットサンドを半分に切って半分ずつ交換して皿に並べる。
スープを注いでテーブルに並べれば朝食は完成だ。本当はもう少し野菜を取りたいところなのだけど時間がないから仕方ない。
俺の部屋からここまで歩いて五分もかかるのは失敗だったと思う。隣の部屋が空いていたなら絶対に借りたのに。
「いただきます」
いつも通り挨拶して、ぱくぱくと大口開けて美味しそうに食べる亜子を眺めてから自分のご飯に口をつける。
最初にハムとチーズの方にかぶりつく。良い具合に溶けたチーズがパンから溢れんばかりにとろけてくる。ツナとコーンも残り物を入れただけとは思えないくらい美味しい。
朝ご飯は亜子にとってはちょうどいい量で、俺にとってはほんの少し物足りない。
まあ腹八分目がちょうどいいとも言うし俺が増やすと亜子も食べたくなってしまうのでこれが一番良い量なのだ。
朝ご飯は早めに食べ終え、亜子の世話をあれやこれやと焼く。それから夜にご飯が炊きあがるように炊飯器をセットする。昼に食べられるように昨日余ったご飯でおにぎりを握り、昨日のおかずの余りや常備しておいたものを適当に弁当箱に詰めて亜子に持たせる。
なかなかに過重労働だ。ちなみにお弁当は自分の物も作れる時は作るが作れない時は買う。亜子が優先だ。
余裕を持って行動したはずなのに何故か時間ギリギリというのは毎日のお約束だ。
「ほら、遅れるぞ」
俺が先に玄関に立ち、なにやらまだ中にいる亜子に声をかける。
ようやく慌てた様子で出てきた亜子は焦ったのか何もないところでつまずいた。
驚きつつ慌てて手を伸ばして抱き留めた。ここまで密着することはさすがにあまりないので、少々戸惑わなくもない。
「……気をつけろよ」
とりあえずそれだけ言って身体を離す。亜子は何故か俯いているが、反省は後にしてもらいたい。学校に遅れてしまう。
亜子は駅前の大学だからいいけど、俺はそこからさらにバスに乗らなければいけないのだから。
立ちすくむ亜子の手を引きつつ出かけたものの、何故か亜子はその日一日中ギクシャクとしていて、どこか旧式のロボットのような動きをしていたのが不思議だった。
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