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常春26
「いいねぇ絆くん、ちょっとこっちに視線もらおうかぁ」
部屋に戻ったら、ヒゲのカメラマンがさっきよりも近い距離で立ったり座ったりしながら、カメラをパシャパシャやってるとこだった。
当の絆は、さっきの場所とはまた違うところで、今度は手を畳について、カメラマンを見上げる格好。
「うん。すごいいいよ、想像以上っ!」
くそ。
あの角度はクソ可愛いやつじゃないかっ!! いいに決まってるだろっ!!
なんでそんなもんを、あのヒゲに見せんといかんの!?
「なあ、トキワくん、あんなに枚数必要なわけ? もう十分撮ったろうが」
そもそも開始時刻から計算したら、もう2時間近く経ってることになるぞ!?
短い廊下の隅に腕組みして立ってたトキワくんは、絆に視線を向けたまま、俺に肯定ではなく苦笑と小声を寄越す。
「まだ殆ど撮ってないよ。用意に時間かかったし。それに、一番綺麗に撮ってって絆のご所望に、クラマさん…て、カメラマンね。クラマさんがノリノリなんだよ」
見りゃわかるわ。
あの嬉々とした表情とか態度が演技なんだとしたら、俳優でも食ってけんだろ。
「絆は何どう撮っても綺麗なんだよ。だからもう、いいんじゃねえか?」
「山登、おま、どんだけよ」
声をたてずにニヤニヤ笑うトキワくん。
なかなか人を苛立たせるのに長けてるな。
「うるさい。どんだけでも、だ」
俺の言葉にトキワくんはわざとらしく目を見開き、そして肩をすくめた。
「そこまで言うなら、絆の前で女と仲良くおしゃべりなんて止めてやりゃいいのに」
「はあ? 仲良くなんてしてないしっ! ありゃ業務連絡っ! ………え、絆キレてた?」
「いやぁー」
トキワくんが苦笑いを浮かべて口を開いたとき、カメラ助手の女の子が顰めっ面でこっちを睨んできた。
「すいませんけど、もう少し声落としてもらえます?」
「……あ、はい。すみません」
頭を下げながらチラと奥に目を向けると、ニ間向こうの絆と目が合った。
うわ。
キレ。
いつもと違う姿はこんな短時間では決して見慣れるもんでなく、どうにもドギマギしてしまう。
が。
俺の心絆知らず。
やはりさっきの電話で気を悪くしてるらしい絆は、「フンっ」って表現を全力で体言して、そっぽを向いてしまった。
うわーーーーーーっ!
俺、なんも悪いことしてないのにっ!!
なんなら褒めてもらいたいくらいなのにーーーーーーっ!!!
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