ストラップ

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ストラップ

「何それ、新しいストラップ?」 「うん。可愛いだろ」 「まあ、山登がそう思ってんなら、いいんじゃないの?」  俺の身体にぶら下がるようにしてくっついてきた絆を見て、樋口はつまらなさそうに、手にしていたケーキの箱を差し出した。 「なんなら、そのケーキ、僕が帰った後に使ってくれてもいいけど」 「ケーキは使うもんじゃないからね」  とか言いながら、俺もまあ、想像はしたけどさ。  うわぁ。  鼻血もんだわ。 「まあ、あがれよ」  俺の背中に乗っかったままの絆の言葉に、樋口は盛大に眉を顰めた。 「嫌だし。なんの罰ゲームだよ。度の過ぎた他人の幸せなんてものは、苦痛以外のなにものでもないから。じゃ、これ、鍵。ありがとね。あ、結婚式には呼んで。ブーケトス、頼んだよ」 「おう! まっかせとけいっ!!」  背中から身を乗り出して車の鍵を受け取った絆は、別に酒を飲んでるわけじゃない。  ただ、あの日からずっと、「くっついとけ」って俺の言葉を遵守するように俺から離ようとしないだけ。  可愛くない?  いや、もう、ほんと可愛くて可愛くて。  そりゃね?  もともと、甘えッ子だし、今までだって、よく背中には這いあがってきてたけどさ。  やっぱね。  違うっしょ。  だってね。  コ・イ・ビ・ト・だ・か・ら。 「つか、なに、山登のそのアホ面。むかつくわぁ」 「なんとでも言え」 「なに、その余裕。重ねてムカつく。あーあー、お邪魔さまっ! またねっ」  忌々しいとばかりにドアを閉める樋口を笑顔で見送って、ケーキの箱を持ち上げる絆を今度は前に抱いて、リビングへ戻った。  絆が俺の首に右手を回し、身体を伸ばしてローテーブルにケーキの箱を置いたのを見届けてから、身体を掬うように抱きあげ、ソファーに沈み込む。  絆は右手を俺に巻きつけたまま左の手で俺のシャツの胸元をツンと引っ張ると、黒目がちの丸い目で、ねだるように見上げてきた。
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