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所有欲
思わず二度見する美貌。
ゆるくウェーブをかけた黒髪を耳にかけ露わになった頬は薔薇色で、まるで名匠の作った陶磁器の人形みたいだ。
透明感のあった美しさは零れ落ちそうなほどの艶を帯び、大きめの黒いモッズコートがその華奢な身体を一層際立たせて、一瞬性別すら惑わせるほどだ。
つか、あれ、俺のコートだよ。
いや、正確には昨年末、風邪をひいていた絆にやったやつ。
衣装持ちの絆が、わざわざサイズの違う、古びたあのコートを着てる理由───。
もう、うぬぼれても、いいんだよな?
うーわ。
なんかもう、マジで、顔が勝手にニヤけてくるんだけど。
冬休みの最終日も結局家にこもってイチャイチャしてたから、せめて今日は外食デートでもってことで久しぶりの待ち合わせ。
耳にイヤホンを入れ、ホームの壁にもたれてスマホを弄るほっそりとした姿に、通りすがりの学生、妙齢の男女、おっちゃんおばちゃんまでが目を奪われているってなあ、今も昔も全然変わらない……が。
匂い立つ色気っていうんだろうか。
ただそこに居るだけなのに、オーラが艶やかっていうか、艶めかしいっていうか……エロ…い?
くそーーーっ!
そこのリーマンっ!
俺の絆を舐めるように見るんじゃないっ!
その目は絶対、そういう目だろ!!!?
絆もだよっ!
そのコートにはフードがついてるんだから、頭から被ってろっ!!
駆け寄る俺の気配を察したらしい。
こっちに視線を向けると、大輪の花を咲かせるような笑顔を見せた。
「山登っ」
ああ……もう、やばいから。
どんだけ惚れさせんだよ。
朝別れてまだ半日だってのに、全身から歓びを溢れさせてる絆。
内側から光り輝くような美しさに目を奪われつつも、それを誰にも見せたくなくて、言葉よりもまず、コートのフードを頭からスッポリ被せ、周囲の視線から隠すように、フードの前を合わせる。
「何?」
戸惑ったような、困ったような笑顔を向けてくる絆を、すぐにでも抱き締めてキスをしたい衝動をグッと堪え、フードの間から瞳を覗き込んだ。
「俺の絆を奴らに見せたくない」
そんな俺の所有欲丸出しの言葉に、絆は、うっとりするくらい甘い微笑みを浮かべると絆のコートの襟元にあった俺の手に、そっと小指を這わせた。
「……会いたかった」
俺を映す潤んだ瞳と切なげな声に、件の教授の───そしてそれ以外にも過去のオトコがいるかもしれない大学に送り出した俺の心境は、かなり複雑なものとなる。
こんだけ真っ直ぐの感情を俺に向けてくる絆を信用してないなんてことはもちろんないけど、それはあくまでこっちの話なわけよ。
ああっ!こんな色気駄々漏れの絆を見られてるのかと思っただけでもうっ!!
「マジで、監禁しときたい」
我ながら、大概だとは思うんだ。
けど、本気で思うんだからしょうがない。
とは言えさすがに、アホだろって、そう、返されると思ったら。
「俺も、思ってた」
なんて上目遣いに言うもんだから。
耐えきれず、トイレに連れ込んだ。
大概だ。
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