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堰を切ったように
あまり人の来ないデパートの礼服コーナーの男子トイレ。
どうしても耐えきれなくて、その個室にしけこんで、キスを交わした。
「……ん…ぅ…」
「…ぁ…絆…」
濡れたリップ音と浅くて早い呼吸に酔いながらも、トイレといえば違うオトコと絆がヤッてたなんて記憶が思い返され、ついつい口づけは荒っぽいものになってしまう。
くそっ。
吐息も、喘ぎも、全部俺のもんだってのっ。
───セックスの時のキスを嫌がる。
どこが?
絆は自分からキスをせがみますけど?
心の中で嫉妬がらみの優越感に浸る俺の唇を食みながら、絆が囁くように言葉を発するのに、腰が脳髄にかけてがビリビリする。
「……やま…と…好き…好きだ……山登のこと、すげぇ見てる女に、イライラする。俺んだから…見るなって…いいたく、なる…」
グッと、心臓が掴まれたみたいな、甘苦しい熱。
同じことを思ってたなんて、嬉しいとかなんて感情を超越させて、もう、悶絶の勢いだ。
触れ合わせた唇から伝わる、耳に、脳に歓び与えてくれるその音の振動に、たまらずその細い身体をかき抱いた。
「俺もだ。絆のこと好きすぎて…マジで…頭が変になりそう」
「…ん……山登…」
やばいくらい、好きだ。
ずっとずっと好きで。
それこそ、世界一好きな相手で。
今までだって十分すぎるほど好きだったはずなのに。
なんでもっと上なんてもんが、存在し得たのか。
「……は…ぁ……飯より……山登が食いたい。も、家、帰ろ?」
真っ黒の大きな瞳で見上げられ、濡れた赤い唇でねだられたら。
グッと、俺自身が質量を増したのは、そりゃいたしかたない話で。
それでも、絡みつく絆の誘惑をかわす為、なんとか理性を総動員させる俺は、なんて偉いんだ。
「だーめ。このまま帰って勢いに乗ったら、絆飯食わないで寝るから、ちゃんと飯食って帰るの。夜まで大人しく待ってなさい」
ここ数日栄養補給より性欲の解消が先にたってて、ロクなもん食ってなかったからなぁ。
そんでも解消しきれてない俺たちは、もう、盛りのついたサルか、中学生だ。
「んーっ。ずっと待ってたのにぃ?」
いや。
拗ねた感じも、尖った唇も可愛いけどもっ。
流されないよう、小さく深呼吸。
絆は元々飯を食うってことに頓着しないから、ここは俺が大人にならないと。
「んんーっ。飯ちゃんと食うから、ね?」
腕の中からこっちを見上げてくる絆の欲に濡れた目を見ても、だ。
それでも耐えないと、絆の身体がっ! 栄養状態がっ!!
「ね?」
ぬぅっ!
普段は、”ね?”なんて可愛い聞き方しないくせに、なんてあざといんだっ!
「……じゃあ……味見だけ……………していい?」
俺の首筋に、囁きとともに途切れ途切れの熱を吹きかけ、固く芯をもった俺の中心を指でなぞる。
「…はっ…ダメだって…」
俺の拒否は、もう拒否の体をなしてないなんてバレバレで。
「……ぁ…すげ…うまそ……」
なんて、赤い舌を覗かせられたら。
もう、デパ地下で何か精のつくもの買って急いで帰ろうって、なるだろ。
そう。
大概なんだよ。
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