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心機一転
「なに、山登。気持悪いんだけど。何へにょへにょしてんの?」
絆からの他愛無いメールに頬が緩んでたらしい。
やっぱりね。
違うんだよ。
付き合い始めてからはメールの回数がっ!
オトモダチだったときは、それこそ何日もやりとりしない日もあったのに、もうね、今はお互いが今何してるかわかるくらいっ。
「見てらんねえな、おい」
一緒に昼飯を食ってた酒井と小森から指摘を受けたら、それはそれで色々思い出されて、一層表情が崩れてしまい、そしたらその反動みたいに小森が顔を顰めた。
「で? その顔は何? 女系?」
ついつい解れ、緩む口。
「へっへー。コイビト系?」
恋人だってさっ。
うわ。やば。
顔だって崩れるだろ!
幸せなんだからさっ。
そんな俺のオノロケに、小森が口に半分入れてた唐揚げを、思わずといったように口から出した。
「はあああ!? マジで!?」
「へっへー」
「だから、ふにゃんふにゃんすなっ」
「どうせ、あれだろ? 一夜妻だろが」
「んなわけあるか。一生妻だわっ」
「うーわ。キモ。山登が? うーわ、キモ」
「はあ!? キモイってなんだよ。俺は今、人生の春を満喫してんだ」
「年末まで人生に煮詰まってるとかほざいてたくせにっ」
そう。
そうなんだよ。
ほんと、人生何がおこるかわかんないよなぁ。
「ふふん。そんな山登くんは去年でおさらばなんだよ。ああ、人生って素晴らしいっ!」
「それにしてもいきなりだよな。何? 前からの知り合い? ちょっと一回合わせろよ。可愛い?」
「いや、逆に不細工なんじゃね? 実はB専だった的な」
浮かぶのは黒い潤んだ瞳と、少し開いた官能的な赤い唇。
言っちゃあ失礼だけど、そこら辺の女の子で絆以上に綺麗な子なんて、そうそういないだろ。
最近一層艶が増したのに、ほんと、外に出すのが嫌なくらいだ。
「や。それが、もう。激カワなの、これがっ!!!!! 会わせないけどねっ! 減ったら困るからっ!」
「だから、その顔やめっ!」
「なに? 同級? 学校は?」
「ナイショナイショ」
「はあ? 何それ。言えよっ! 写メ寄こせ写メ」
「まあ、また追々にな」
「おいおいっ!」
おっさんくさい突っ込みを入れてくる酒井に、小森が苦笑いして肘をつき、一旦唐揚げを皿に戻した。
「なに、ニュー山登ちゃん、来ちゃったわけ? 地方に飛んだわけでもないのに? お手軽だったな、おい」
「お手軽なもんか。俺がこれまでどんだけ苦悩の日々を送ったかっ」
「はいはい。え? でも、どうすんの? 先輩に繋ぎとってもらったんだろ?」
そう。
会社説明会にねじ込んでもらおうとしたんだ。
絆と距離を置こうとして、一旦はその方向で話を進めてたんだけど、今となっちゃその必要はない……っつか、そんなもん困る。
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