91人が本棚に入れています
本棚に追加
生クリーム
「ケーキ、食べていい?」
ここ数日、家には着替えを取りに帰っただけで、ほとんど絆と行動を共にしてる俺の教育の賜物。
”ご飯前に甘いものを食べない”
コンビニスイーツやアイスを前には、いちいち言わなくてもきちんと守ってたけど、箱に入ったケーキの誘惑には逆らい難いものがあるらしい。
「んー。絆、んなもん食ったら飯食わないしなぁ」
「じゃあっ、山登が食べても大丈夫って思うだけでいいから、食べさせて?」
きゅるんと見上げる自分の可愛さを、こいつは熟知してるに違いない。
「うう。ずるいぞ、絆」
「わーい、ケーキだケーキだぁっ!」
俺が折れたと見るや、さっさと俺から身体を離して箱に飛びつく絆。
俺に食わせろみたいなことを言った傍から白いクリームのたっぷりのったケーキを自ら掴んでフィルムを外すと、大口を開けて顔に近づけた。
「こらこらこら」
「あーっ」
手を出して押しとどめる俺を、さっきとは違う非難染みた上目で見上げてくる。
「ダーメ。俺が、食べさせるんだろ?」
「うー」
口を歪め、唸る絆を後ろから抱き締め身体を固定し、手から回収したケーキを顔の前にツイと差し出した。
「なんだよ」
「舐めていいよ」
「はあ?」
絆が舌を伸ばせば届く距離。
「ほら……届くだろ?」
耳朶を食み囁くように声を注げば、絆の身体がフルッと震えた。
「生クリーム、嫌い? ん?」
絆のスイッチが入ったのが零れた吐息と上がった体温で伝わる。
「……好き…」
たった二文字。
それが十分な艶を帯び、俺の温度をもあげていく。
「……ん…」
そろりと舌を出し、尖らせたその赤で白いクリームを掬いあげる。
「う、まい?」
思わず掠れた俺の声に絆は小さく頷くと、すっかり甘く蕩けた瞳を向けてきた。
「ん。……うま、いよ」
「まだ、欲しい?」
「ん。……食わせて?」
クリームのたっぷり乗ったスポンジを指でちぎり、そのまま絆の口元に運ぶ。
その指が暖かい粘膜に包まれたかと思うと、舌が、個に生を持った生き物みたいな艶めかしい動きで絡みついてくる。
「……あ……」
ゾワリと腰から脳天を抜ける痺れに耐えきれず、その細い顎をつかむと舌で歯列を割り、生クリームの甘い名残りを全て攫ってやった。
最初のコメントを投稿しよう!