生クリーム

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生クリーム

「ケーキ、食べていい?」  ここ数日、家には着替えを取りに帰っただけで、ほとんど絆と行動を共にしてる俺の教育の賜物。  ”ご飯前に甘いものを食べない”  コンビニスイーツやアイスを前には、いちいち言わなくてもきちんと守ってたけど、箱に入ったケーキの誘惑には逆らい難いものがあるらしい。 「んー。絆、んなもん食ったら飯食わないしなぁ」 「じゃあっ、山登が食べても大丈夫って思うだけでいいから、食べさせて?」  きゅるんと見上げる自分の可愛さを、こいつは熟知してるに違いない。 「うう。ずるいぞ、絆」 「わーい、ケーキだケーキだぁっ!」  俺が折れたと見るや、さっさと俺から身体を離して箱に飛びつく絆。  俺に食わせろみたいなことを言った傍から白いクリームのたっぷりのったケーキを自ら掴んでフィルムを外すと、大口を開けて顔に近づけた。 「こらこらこら」 「あーっ」  手を出して押しとどめる俺を、さっきとは違う非難染みた上目で見上げてくる。 「ダーメ。俺が、食べさせるんだろ?」 「うー」  口を歪め、唸る絆を後ろから抱き締め身体を固定し、手から回収したケーキを顔の前にツイと差し出した。 「なんだよ」 「舐めていいよ」 「はあ?」  絆が舌を伸ばせば届く距離。 「ほら……届くだろ?」  耳朶を食み囁くように声を注げば、絆の身体がフルッと震えた。   「生クリーム、嫌い? ん?」  絆のスイッチが入ったのが零れた吐息と上がった体温で伝わる。 「……好き…」  たった二文字。  それが十分な艶を帯び、俺の温度をもあげていく。   「……ん…」  そろりと舌を出し、尖らせたその赤で白いクリームを掬いあげる。 「う、まい?」  思わず掠れた俺の声に絆は小さく頷くと、すっかり甘く蕩けた瞳を向けてきた。 「ん。……うま、いよ」 「まだ、欲しい?」 「ん。……食わせて?」  クリームのたっぷり乗ったスポンジを指でちぎり、そのまま絆の口元に運ぶ。  その指が暖かい粘膜に包まれたかと思うと、舌が、個に生を持った生き物みたいな艶めかしい動きで絡みついてくる。 「……あ……」  ゾワリと腰から脳天を抜ける痺れに耐えきれず、その細い顎をつかむと舌で歯列を割り、生クリームの甘い名残りを全て攫ってやった。
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