10年の重さ

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10年の重さ

  「あーと。……ひさしぶりっ、つうのも変、か。さっきまで一緒に飲んでたのに」 「はい」  俺の送別会を兼ねた、元バイト先の新年会。  迪也とは席が離れてたから挨拶だけはしたけど、話らしい話をしてなかったんだ。  二次会に出るという他の面々は既にタクシーを探しに夜の町に消え、俺はその酔っ払い達に、最終電車を待つ迪也の付き添いを命じられていた。 「ちゃんと、飯、食った?」 「食べましたよ。お酒も、へへ、ちょっと飲んじゃった」  一か月ぶりに会った迪也は少し面やつれしてて、ひょっとして俺のせいだろうか、なんて思うのは図々しい話なのかもしれないけど、告白を受けて断ったって手前、やっぱり後ろめたいのは致し方ない。  例えば残してきた絆がちょっと暗かったのには迪也の存在があったりするわけで、決して悪いことをするつもりもないけど、迪也とのキスシーンを見られてるから、それはそれでまた後ろめたくて。 「なんか…山登さん、またカッコよくなってるし。うまく、いったんだ」   にっこり笑ってくれる迪也に、俺は、誠意を込めて頷いた。 「うん。10年目の正直ってやつ」 「よかった。僕のこと振ったんだから、幸せになってもらわないと」  これまで迪也の口から出たことないような揶揄を含んだ言葉が出るのに、ちょっと飲んじゃったってのが、ほんとなんだって、わかった。  「うん。なる」 「ふふ。凄いなぁ。山登さんは。僕は……10年も、あんな辛い想い、できないや」  あんな辛い想い、をさせたのは、俺なのか。  それを聞くのは違う気がして、みんなからもらった、やたら軽いプレゼントの箱で、ぽんと頭を叩いた。
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