小春日和のはず

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小春日和のはず

 ちょっといいコンビニアイスを土産に、マンションの窓を見上げた。  部屋の電気はついてるけど、少し前に送った”帰るメール”に返信がないから、ひょっとして電気を点けたまま寝てるのかもしれない。  時間にしちゃあまだ11時を回ったとこで、普段の絆なら起きてるだろうけど。  気持が通じたことでどうしても盛り上がる夜。  寝不足な上に体力の低下の著しかった絆は、俺のいない今日こそ潰れてしまってるんだろう。  ああ、もっと早く帰って来たかったっ。  だって、やっぱ、おやすみとか言いたいでしょうよっ。  そりゃまあ、寝顔も可愛いんだけどねぇ。  もうっ、あああっ!  とにかく抱きしめたいっ!!!  エレベーターでは足踏みし、逸る気持ちを抑え、もらった合鍵で鍵を開けながら靴から半分足抜いて。   ドアを開け、落とすみたいに靴脱いで、リビングの灯りのせいで余計暗い廊下に踏み込んだ───ら。 「のわっ!!!」  白い塊につまずきそうになって、慌てて回避できたのは、奇跡だと思うわ。 「な、なんだ!?」  でっかいごみ袋かと思ったんだよ、最初。  でもそれは──── 「絆ぁ!?」  身体から、血の気が下がってくのがわかるくらい、ぞっとする。  貧血!?  怪我!?  上体を抱きあげたら、虚脱した手からゴトリと音を立ててスマホが滑り落ちた。  ……な、に?  なん、なん、だ? 「絆っ! 絆っ!!!!」  ふざけんなよ!!   だって……春だぞ!?  どこもそこも。  先取りの小春日和で。  なのに。  な、のに!!! 「きずなぁぁぁ!!!」 
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