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常春22
「郷に入っては、だよ西松さん。大和撫子はそんなお転婆なことしちゃいけません、て」
これじゃ大和撫子ならぬ山登撫子だ。
レコードから針をはずすように、俺の太腿にセクハラをかましてる西松さんの手を浮かせて押し戻そうとしたら、その手を、ギュっと握られた。
「来週、研修終わったら、部署バラバラになるじゃない? それまでにこんな時間とれたのって、ちょっとした運命だと思うの。彼女にバラすとか、付き合って欲しいとか、私、そんな無粋なマネはしないわよ。どう?」
何が、どう? なのか。
ちょっと気の強そうな、後腐れなさそうなスタイルのいい美人なんて、そりゃあ、美味そうだもん。
しかもこの肉食度。ヘルシーなマグロとは違う、それはそれは濃厚な気持ちのいい時間を過ごせそう。
まあ、とりあえずこれは、世に言う「据え膳」ってやつだろう。
「あっ! すみませんっ! ここで降ります!」
そう。俺は武士ではないので、食わなくても恥じゃないっ!!
「ねえ、ちょっとっ!!」
「また明日ね。今日はお互いお疲れさんっ!」
ポリアモリーだかなんだか知らんが、うっかり勃たされちゃ適わない。
俺は財布からメーターに表示された金額よりも多めの札を抜いて西松さんに押し付けると、逃げるようにタクシーを降りた。
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