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常春27
「お、今の感じもいいなぁ」
俺の心の叫びなんて全く意に介するわけもないカメラマンは、これまた嬉しそうにそんな呑気なことを言ってる。
「じゃ、今度ちょっと、蓮っ葉な感じで、片膝立ててみてくれる? あー、そう、もうちょいっ」
ファインダーから目を離したカメラマンは、空いた方の手で絆に膝の角度を指示してたんだけど、求めるものと違うのか、なんとまあ直接絆の立てた右脚に触れ、生肌の上を滑らすように襦袢の間を割いて、白い脚を露出させた。
「っなっ!! ちょっ!! ああっ!!」
言葉にならない衝撃に踏み出しかけた俺の腕が、何者かに掴まれる。
それはトキワくんで、口元に指を当てて、目を見開いて俺を威嚇してた。
「落ち着けっ」
「いやっ。だってっ!!」
「あの人に撮ってもらえるなんて機会、ほんとないんだぞ!? しかも無料でっ! 手弁当でっ! この話は絆がノったんだから、おまえが邪魔すんなっ!!」
基本的に温厚なトキワくんが押し殺した声で、それこそいっそ俺を押し殺さんばかりに睨んでくるのに怯んでる間にも、カメラマンの声は耳に届いてくる。
「いいアングルっ!! ちょっと斜め向いてこっち睨んでみて。そうっ! ちょっとだけ、鼻であしらう感じに笑ってみてくれる?」
そして今度は、絆の緩い胸元に手を差し込んで滑らせ、少しだけ肩を露出させていた。
「!!!?」
その手に、不純な感情はないんだろうなっっっ!?
「いやぁ、肌綺麗だねぇ。ずっと触ってたいくらいっ」
クロだーーーーーっっっっ!!
その言葉に、嫣然と微笑む絆のその表情は、いっそもう誘ってるだろってくらい蠱惑的で。
くそっ!
よその奴にそんな表情すんなっ!!
「今のカオ、最高っ!! 設定のイメージそのまんま! 今みたいな雰囲気で、今度は惚れた相手のこと想って、表情作ってみて? あの人が欲しくてたまらないっ! けど、あの人は来ないっ! やるせなさと、切なさと、燻る想いと、心の篭もらない行為の日々で持て余す体っ!!」
はあ!???
なんちゅう設定だよっ!!
こんなもん中止だっ、ボケ!!!!!!
そうしてトキワくんの腕をはらいながら口を開きかけたとき。
─────ドクン。
人は。
何度だって、同じ人間に恋をすることができるんだと。
思い知らされた。
愛や恋には賞味期限があるなんて、ありゃ嘘だ。
だって俺、今、また泣きそうだもん。
目が合って。
カメラマンの言葉を体言するみたいな。
焦がれるような瞳を向けられて。
半分開いてた赤いその唇が。
───ヤマト───
俺の名を。そう、形どって。
俺はまた。
恋に。
堕ちたんだ。
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