常春28

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常春28

 恋する心は嫉妬っていう感情を過剰な程に膨らますよね。  でも、絆の心がちゃんと俺に向いてるってのはわかってるから、敢えてこの負の感情を口にするまいと決心してたんだ。  なのに。 「やーまとちゃん、なぁに拗ねてんの?」  先週俺が口にした言葉を、すっかり返された。 「おまえ、ワザとやってたわけ」  だとしたら、ヒゲカメラのいいようにさせてた絆にそのイライラを向けるのは至極当然な話だ。  そして当のヒゲカメラは撮影を終えて絆にハグをし、既にスタッフもろともガヤガヤと引き上げていたが、絆にそっと名刺を渡してたのを、俺は見落としてないぞ。 「まさか。ただ機嫌が悪そうだから、ヤキモチの一つも妬いてくれたのかなぁと思って」  ニッコリと向けられる、余裕の表情。  くそうっ。やっぱわざとじゃねえかっ!! 「一つ? ふざけんなよ。見りゃわかんだろ。ベタベタ触らせやがって。それとおまえ、さっき名刺渡されたろ。ちょっと見せてみ?」  個人的なアドレスなんてもん書き込まれてようもんならひき破いてやるっ!  確か襦袢の袖に入れてたはずと、手を伸ばしたときだった。背後から誰かに肩を持たれた。 「お取り込み中だけどちょっといい?」 「あん!?」 「ヤマト怖いわ。いや、俺ら帰るけどさ、ソウキチが絆に挨拶したいって」  肩を持った手はトキワくんのもので、その横に居たのは、インディーズでやるとなったときに追加加入されたギター、ソフトアフロのたれ目青年だ。 「ほれ、ソウキチ。この巨人はとってくわないから、こっちこい」  一瞬何の話だろうと思ったが、ソウキチが頭一つデカい俺を見上げて怯えてる様を見て、理解。 「誰が巨人だよ。踏み潰すぞ」 「威嚇すんなよ山登。悪いな。これでも普段は心優しいダイダラボッチなんだ」  緋色が俺を制して前に出てくる。  誰がダイダラボッチだ。言いたい放題かよ。つか、そもそもお前が悪いっ!  けどそんな突っ込みを声に出せなかったのは、ソウキチの目がハートになってたからだ。  はっ。こりゃいかん。  俺は前に立つ絆の背を抱き寄せ、背後から伸ばした手で、緩んだ襦袢の襟をキッキリ合わせた。
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