「なんでも私書箱」

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『なんでも私書箱あります』 そんな幟が立っていたので、 なんとなく雑居ビルの一室に入る。 小さな部屋に、ロッカーがたくさんある。 なんでも500円であずけられるというので、 身の回りにある邪魔ないろんなものをあずけた。 介護で嫌みばかりを言う母親、 酒浸りで毎日遊んでばかりで働かない父親、 引きこもりのぐうたらな弟 さんざん助けてやったのに裏切った友人 ほかにも数えきれないものをあずけた。 一枚の紙に書くと、 あずけられるシステムだ。 それは、目には見えない 形のないものでも例外ではない。 文字通り『なんでも』あすげられるのである。 一人の人物が、私書箱に紙を入れる。 その人も何かをあずけに来たようだ。 紙を見た瞬間、びっくりした。 そこには、『自分』とあった。 自分もあずけられるのか、 やがて、男は命が危ぶまれるほどの癌になったので、 『病気』を私書箱にあずけた。 嘘のようにすっかり完治した。 その頃になると、もう遊びのようにあずけるという行為が楽しくなり、ゴミを捨てるかのように、『疲労』や『ストレス』など、あずけなくていいものまであずけるようになっていた。 断捨離をするように、捨てるようにあずけて、 部屋はすっかり何もない部屋へと変わった。 運試しで宝くじを買うとなんと一等の3億円が当たっていた。 誰にもとられたくない主人公は、私書箱にあずける。 換金日が来て、宝くじを引き取りに行くと、 『この私書箱は、あずけるときはいくらでも無限にあずけられますが、引き出すとなると何かひとつずつは無理なんです。 だから、引き出すときは全部を引き出さなくてはなりません。私書箱を分けるべきでしたね』 全部を引き出すということは、あずけた病気も引き出さなければならない。 引き出したとたんに再び癌になり死んでしまうのである。 金をとるか命をとるか、その選択に迫られる。 もちろん命を、とりたい。 しかし、お金も欲しい 究極の選択に、男が最後にあずけたのは、 『欲望』だった。 これでお金への執着はなくなるはずである。 そのかわり生きるという欲望も すっかりなくなってしまったのだ。 しかし、死ぬこともできない。 死にたいというのも、 ある種の欲望のひとつだからだ。 自分には何もない。 もはやあの私書箱にあずけるものは、 なにひとつなくなってしまったのである。
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