第七章:燃ゆる想いを 箏のしらべに

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 演奏会を終えてのち、しばらくして母から 一本の電話があった。友人の勧めでNPO団 体が主催するグループセラピー、『ともしび』 に参加するようになったという知らせだった。  愛する人や家族を亡くしたことによる深い 悲しみは、時に、『日にち薬』だけではどう にもならないことがある。  そんな人たちの悲しみに寄り添い、前を向 いて生きる為の支援をする『グリーフケア』 という試みが、社会的にも注目され始めてい るようだった。  いまはまだ、母は前を向く勇気を手にした ばかりで、深い悲しみは癒えていない。  けれどいつか喪失感を手放せたとき、また あの稽古部屋で箏を弾ける日が来るかも知れ ないと、古都里はそんな未来を想像していた。  「あっ、そう言えば……」  涙に濡れた頬を掌で拭いながら照れ隠しの ように明るい声で言うと、古都里は右京を見 上げた。  「もう、楽器の搬出は終わったんですか? わたしがお手伝いする間もなく、狐月くんと 雷光さんの二人でどんどん運び出してたので、 席を外しちゃったんですけど……」  箏柱を外し、箏袋に仕舞うところまでは古 都里もお弟子さんたちと一緒に手伝ったのだ けど……。搬入の時と同じく、和室の入り口 に纏められた箏や備品は、あの二人が担いで せっせと車に積み込んでいた。  「さっき残りの箏を積み込んでここを出た から、もうすぐ荷を下ろして迎えに来ると思 うよ」  「良かった。二人とも阿吽の呼吸と云うか、 凄く手際が良いからお弟子さんも助かっちゃ いますね。あっ、でも、一つ気になることが あるんですけど……」  「気になること?」  古都里は上目遣いに頷き、そして言い淀む。  気になることと言えば、あのことしかない。  「搬入の時はお箏を両手に担いでベランダ から飛び降りてましたよね?でも下から二階 の部屋に運ぶ時はどうするのかな?って…… ちょっと気になってて」  それは素朴な疑問だった。  丈のある箏を担いで狭い階段を上るよりそ の方が手っ取り早いと言っていたけれど……。  さすがに二階の部屋に箏を戻す時は階段を 使うしかないだろうと、思う。  いや、そう思いたい。  その思いを言外に込めると、右京は、すぅ、 と目を細めた。  「どうやって二階に運ぶか……聞きたい?」  言って右京がじぃと目を覗き込むので、古 都里は思わず唾を呑む。  この感じはもしや……嫌な予感しかしない。  「い、いえ。やっぱいいです。聞かないで おきます!」  不敵な笑みを浮かべる右京に慌てて手を振 って答えると、右京は可笑しそうに、あはは、 と声を上げたのだった。
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