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要するに。
古都里には黒く見えていたそれが、右京に
は初めからご先祖の魂に見えていた訳で……。
けれど、どうして突然、はっきりと見える
ようになったのかと問えば、途端に右京の目
が妖艶なものへと変わる。
「どうしてはっきり見えるようになったか。
その理由を知りたい?」
「ま、まぁ」
ちょん、と右京の指が古都里の唇に触れる。
何となく返ってくる答えが想像できてしま
って、古都里は頬に紅葉を散らしてしまった。
その初々しい反応が愛しくて堪らないと言
いたげな顔をすると、右京は古都里の肩に腕
を絡める。
「こうやって僕と触れ合うようになったか
らだろうね。天音も、僕と交わるようになっ
てからはっきり見えたり、聞こえたりするよ
うになったから。これからもっと深く交わる
ようになれば、古都里もそうなると思うよ?」
低く甘い声で言って、右京が古都里の頭に
顎を載せる。
「まっ、まっ、まっ!!?」
艶めかしいことを口にすることすら憚られ
て、古都里は口をパクパクさせながら右京の
腕を剥がそうと体をよじらせた。
「おっ、お弟子さんが来ちゃいますから!
放してくださいっ!」
そう叫んだ矢先、がらりと玄関の戸が開い
たので、古都里は思わす硬直してしまう。
どうしよう、見られてしまった!と、片目
を瞑りながら恐る恐る玄関に立つ人を見れば、
そこには全身黒づくめの飛炎と、飛炎の肩に
ずっしりと凭れかかった雷光の姿があった。
「なぁ、頼むよぉ~。遠距離恋愛に苦しむ
俺様を助けると思ってよぉ。東京までひとっ
飛びしてくれよ、飛炎ちゃーん」
「冗談じゃありません。百キロの巨漢を足
にぶら下げて七百キロも飛べると思いますか。
足が抜けてしまいます」
「いいじゃんか!三本もあるんだから一本
くらい抜けたって。ケチくせぇ」
「それならあなたの角も二本あるので一本
抜いて差し上げましょうか?一本くらいなく
なっても問題ないんですよね?」
じろり、と長い前髪の隙間から鋭い視線を
投げ掛けられて、雷光がしゅんとする。
そして、大事そうに両側の髪際を手で覆う
と、「ひでぇな」とボヤきながら足で格子戸
を、ぴしゃり、と閉めた。
「まったく、賑やかな連中だね。今度は何
の騒ぎかな?」
二人のやり取りを目の当たりにした右京が、
古都里の肩を背後から抱き締めたままで言う。
あわあわと、顔を真っ赤にしながら狼狽え
ている古都里に、ちら、と目をやると、飛炎
は肩を竦めて見せた。
「右京さんこそ。真昼間からお熱いことで。
次の演奏会の曲目を決めるべく参上しました
が、お邪魔なようなら出直しますよ」
冷やかすようにそう言った飛炎の眼差しは
柔らかなもので、右京は、くすくす、と笑み
を零しながらようやく古都里の肩を解放する。
「玄関先でイチャついて悪かったね。千年
も待たされたものだから自制が効かなくてね。
さて、雷光の団子でも食べながら次の曲目を
決めようか。竜胆の花が綺麗だから、縁側で
集まろう。――狐月、延珠、お茶の用意を!」
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