・スイーツ男子。

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 男はナプキンを掴むと、口元をがしがし拭いた。その姿は、俺の顔を気持ち悪いくらい優しく拭いていた男と同一人物だとは、とても思えなかった。 「いや……、そこじゃねぇんだよ……」  呆れながら独り言をこぼすと、ナプキンを手にし、男の左頬に手を伸ばした。 「じっとしてな」  赤い頬に付いたクリームを拭きながら、ふと気づく。  あれ……?   こいつ……。    地味だ地味だと思ってたけど、案外、そうでもねぇんだな……。  黒髪のツーブロックマッシュに黒縁眼鏡。  前下がりの長い前髪が、男の雰囲気と合わさって陰気臭(いんきくさ)く見えてたけど、眼鏡の奥の顔は、結構しゅっとしてる。  服装だって、特に特徴がないってだけで、決してダサいってわけじゃない。良く言や、シンプルってこと。  ずっと派手な色・形したホスト(やつ)ばっか見てたから、勝手に地味だと思い込んでいた。  こいつが地味なんじゃなくて、俺が見てたあいつらのほうが、おかしかったんだ。 「あ……が、と……ござ……す……」  俯く男の唇が、(かす)かに動く。  言いたいことは、なんとなく分かった。礼を言ってんだろう。  っつぅーか、どんだけ顔赤くしてんだよ。  人と接すること自体が苦手なのか、初対面の相手だからなのか。それとも、俺のような人種が苦手なだけなのか。  なんにせよ、生きづらそうだなと思った。  こんなヤツが、公園で寝てる俺に……、いや、倒れている、もしくは死んでいると思ったのかもしれないが、声を掛け、あんなふうに世話を焼くのは、それなりに勇気が()った行動だったんじゃないんだろうか。
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