127人が本棚に入れています
本棚に追加
男はナプキンを掴むと、口元をがしがし拭いた。その姿は、俺の顔を気持ち悪いくらい優しく拭いていた男と同一人物だとは、とても思えなかった。
「いや……、そこじゃねぇんだよ……」
呆れながら独り言をこぼすと、ナプキンを手にし、男の左頬に手を伸ばした。
「じっとしてな」
赤い頬に付いたクリームを拭きながら、ふと気づく。
あれ……?
こいつ……。
地味だ地味だと思ってたけど、案外、そうでもねぇんだな……。
黒髪のツーブロックマッシュに黒縁眼鏡。
前下がりの長い前髪が、男の雰囲気と合わさって陰気臭く見えてたけど、眼鏡の奥の顔は、結構しゅっとしてる。
服装だって、特に特徴がないってだけで、決してダサいってわけじゃない。良く言や、シンプルってこと。
ずっと派手な色・形したホストばっか見てたから、勝手に地味だと思い込んでいた。
こいつが地味なんじゃなくて、俺が見てたあいつらのほうが、おかしかったんだ。
「あ……が、と……ござ……す……」
俯く男の唇が、微かに動く。
言いたいことは、なんとなく分かった。礼を言ってんだろう。
っつぅーか、どんだけ顔赤くしてんだよ。
人と接すること自体が苦手なのか、初対面の相手だからなのか。それとも、俺のような人種が苦手なだけなのか。
なんにせよ、生きづらそうだなと思った。
こんなヤツが、公園で寝てる俺に……、いや、倒れている、もしくは死んでいると思ったのかもしれないが、声を掛け、あんなふうに世話を焼くのは、それなりに勇気が要った行動だったんじゃないんだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!