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「あんた、明日仕事?」
「っ……、いえ……」
「そ……」
相変わらず、男との会話は繋がらない。ずっと一問一答をしてるみたいだった。
「ねぇ……。女、居んの?」
「えっ……?」
「女だよ、女」
「え……、っ、あ……」
「何? 彼女、居んのかって聞いてんのっ」
男は伏し目がちに口ごもった。
俺はそんなに難しい質問をしているわけじゃない。
「居る」か「居ない」か。
ただ、そんだけ。
「……っ……、いえ……。っ、居ない、です……」
「そ……」
男はワッフルを平らげた皿と、空になったカップの前に座っている。やることを失った男は、この状況に耐えられないのだろう。説教でも食らってるガキみたいに、ずっと俯いたまま固まっている。
このままただここに座らせておくことが、少し酷だと思えた。
「あんた、酒、……飲めんの?」
「え……? っ、少し、なら……」
「そ……。じゃ、そろそろ出るか」
出るって言葉に反応したかのように、男は素早く顔を上げた。その表情に、「やっと解放される」という喜びと安堵が混ざっているように見えたのは、たぶん俺の気のせいではない。
男はそろりと手を伸ばし、少し俺寄りに置かれた伝票を、自分の前へと引き寄せた。
俺の気が変わらないうちに、とっとと会計を済ませてしまおうということなのか、席へ着いてから一番大きな動きだった。
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