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「あ、あの……、っ、臨時収入が、入ったので……、おれ、払います」
男は絵でも見せるように、両手で万札を持ち、控えめに笑った。
俺が無理やり握らせたものであろうしわしわの万札は、男の財布からではなく、ポケットから直接出てきたようだった。
「俺が奢るっつったろ」
男の前から伝票を取り上げ、そのまま席を立ち会計へ向かった。
店を出ると、男は予想するまでもなく、当たり前のように頭を下げた。
「ありがとうございます。美味しかったです。ごちそうさまでした」
解放されるという安堵からなのだろう。男の言葉は今までと違って、すらすらと滑るように出てきた。
「それじゃ、おれはこれで……。失礼し、まっ……す……?」
もう一度軽く頭を下げた男の腕を掴んだ。
「あ? なに帰る気満々なの? 飲み行くぞ」
男の体はしっかりと俺のほうを向いていたが、「逃げたい」という思いが先走り、男の心は完全に、俺に背を向けていた。
そんな感情ダダ漏れの男の態度にイラついた。
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