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「あんまこういうとこ、来ない?」
一概には言えないんだろうけど、男の雰囲気から、あまり夜、外に出歩いて飲みにいくという感じがしなかった。それはたぶん、大して珍しくもない内容のメニューを熱心に読んでいる姿も、そう思わせた一つなんだろう。
「あ、はい……。っ、バーには、一度……、だけ……」
「そ……。じゃ、酒、詳しくない感じ?」
「はい……」
読み終えたのか、飽きたのか、それとも諦めたのか。男がメニューをぱたりとテーブルに倒した。
「なんか気になんの、ある?」
ちょうどドリンクのページが開かれていたメニューに視線を落とし、男に聞いた。
「っ……、いえ……。よく、分からないので……」
「そ……。酒は強いの?」
「いえ……」
「じゃ、俺、適当に選んでいい?」
「あ……、っ、はい……。お願い、します……」
体を包み込むように、ゆったりと沈み込むソファ。
緊張がそうさせているのか、男は背もたれに背を付けることなく、背筋を伸ばしたまま浅く座っていた。
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