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テーブルにグラスを戻し、男に視線を向ける。
相変わらず背筋を伸ばしたままの男は、両手で大事そうに持ったグラスに口を付けていた。
そんなに気に入ったのか、ただ間が持てないだけなのか。男は速いペースでグラスを何度も口へ運んだ。
酔えばこいつは、会話らしい会話ができるんだろうか。
「煙草、いい?」
「……っ、どうぞ……」
テーブルの灰皿を引き寄せ、煙草に火を点けた。
会話……。
俺がしたいのは、たぶん親しくなるための会話じゃない。
今まで関わったことのない種類のこの男に、興味を持っただけ。その興味も、決してプラスの意味ではない。
この世界に、本当にいい人間なんて存在しない。
いい人ぶってるこの男の化けの皮を、剥いでやりたい。
ただそれだけだった。
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