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「カナトさんてー、ホストさんだったんですねー。どうりで、イケメンさんだと思いましたー」
男はにこにことご機嫌な様子で言った。
「やっぱり車は、ふぇいーあですかー?」
「いや……。バリバリの国産車」
……つぅーか、「ふぇいーあ」ってなんだよ。
いや、言いたいことは分かったよ。分かったけど、言うなら「ふぇあーい」だろうが。
呂律が回らないとは言うが、てめぇはどこに、舌を落としてきたんだよ。
「じゃあ、ぽるへぇですかー?」
「それは、ドイツ車……」
男は完全に出来上がっている。
これが口説くために連れてきた女なら、世の男は喜んだだろう。
安いもんだ。カクテル二杯で、いい感じに酔ってくれた。
ただ俺は、そういう意味では、全くこの男に興味はなかった。
「お店、大変ですねー。……で、ジャンガって……、なんですかー?」
「ガンジャな。ハッパだよ、ハッパ」
「葉っぱ……、ですか……?」
「大麻だよ」
「あー……、麻薬ですかー」
意味が分かってんのか、分かってないのか。男はとろんとした目でけたけたと笑った。
「大麻は麻薬じゃねぇーし……」
「え? そうなんですかー?」
「麻薬っつぅーのはな、モルヒネとかヘロインみたいな、ケシの実から採ったアルカロ――……、ま、いいや、めんどくせぇ……」
こいつにとって薬物なんてもんは、見たことも触ったこともない、全く無縁の代物なんだろう。現実味がなさすぎるのかもしれない。
「ハッパなんて、マジくだらねぇ……。あんなもんより、もっとぶっ飛ぶくれぇ気持ちいこと、あんのにな……?」
わざとらしく意味ありげに言ってやったが、いかにも鈍そうな男には、全く通じていないようだった。
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