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俺は店に出るときとプライベートで着ける時計を、別にしていた。
普段は、自分が好きで買ったもの。店では、女から貰ったものばかりを着けていた。
店で着けるのは、ほとんどが、たとえ時計に興味がなくても、見れば誰もが「あぁー」ってなるような有名ブランドだった。
王冠マークのブランドや、文字盤の数字が独特なデザインのビザン数字で描かれたもの、「C」が二つ重なったブランドのもの……。
店に来る女にとって、品質だとか性能なんてどうでもいいこと。
それがなぜ高いのか。
なぜ評価されているのか。
何一つ分かっていない。
服でも鞄でも、財布、靴、アクセサリー……なんでもそう。重要なのは、ブランド名とデザインと流行。
そして、金額。
そのマークさえ付いていれば……、周りが羨むようなものならば……、ゼロの数が多ければ多いほど……、俺が喜ぶと思っている。
俺の好みなんて、関係ない。女の好みに合ったものを身に着けていれば、それだけで俺の価値は上がった。
俺にとっては、なんの意味もない価値。
ただ、金のためだけの価値。
じゃあ、自分が欲しいと思ったものを女に貢がれたいのか、といったらそうでもない。
貢がれるのは好きだけど、貢がれたものに興味はない。
好きでもない女から贈られたものに、愛着なんて持てるわけがなかった。
まぁ、貰えるもんはなんでも貰ったけど、本当に欲しいものは自分の金で買いたい。ただ、自分の金といっても、所詮、金の出所は同じ。
それは俺のくだらないプライドでしかなかった。
もし、女の好みではなく、俺自身が「いい」と思うものを身に着けていたら……。
もし、それが女にとって「ダサい」と思うものだったら……。
女はどう思うんだろう。
その良さを、必死に理解しようとするんだろうか。
あっさりと離れていくんだろうか。
それとも、俺が身に着けているものなら、なんでもいいんだろうか。
どちらにしても、女にとって、俺も物も、その程度の価値でしかなかった。
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