理由

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理由

「森君は、どうして走ってるの?」 「体育大会で800m(そう)の選手になったから」 「ああ」  そういえば、学校でそんな話し会いをしていたな、と思い出す。  800m走は誰も手を挙げたがらなかった。1人で走るには長い距離だ。さっきまで「リレーは得点高いから陸上部でまとめよう」と盛り上がってたのが嘘のように教室が静まり返り、じわじわと時間が過ぎる。先生が時計を気にし始める。  そんな中、「俺、走ります」と手を挙げたのが森君だった。 「完全に穴埋め要員だし、俺足遅いけどさ、練習してちょっとでも速くなって、当日『おおっ』ってなったら面白いじゃん」  照れたように彼は笑う。 「えらいねぇ」  私は心底感動した。苦手なものに朝早くから取り組んで、学校でひけらかすこともなくて。  学校での授業態度といい、(しん)の通った人だ。 「俺、伊藤さんの方がすごいと思う」 「えぇー私、走ってないよ」 「そうじゃなくてさ、前に父親に言われたんだ、何事もコツコツやるのが大事だって、皆分かってるけど続かない。習慣にしてる人はすごいって。  俺は始めたばっかだけど伊藤はずっと続けててマジですごいよ。  走るのも散歩も一緒だよ」と強い口調で返した。 「そうかな」 「そうだよ」 「……ありがとう」  急に照れくさくなる。ジョンがもう待ちきれない、というようにロープを強く引っ張って、私達は笑って別れた。
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