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「その石は、持ち主の心の色を表す。おまえの心が綺麗だという証拠だな」 「天使様、僕はこの石を使って、人の命を奪わなければならないんですか?」  彼の持つ能力と同じものを授けられた時点で、自分がそれをしなければならないことを察した。 「それがおまえに課せられた対価だからな。やらないと俺の能力を授けることができない」 「ちなみに、何人の命を奪えばいいのでしょうか?」  思いきって訊ねた僕の顔を見上げた男の子は、してやったりな顔をする。 「千人だ」 「!!」  ひとりやふたりじゃないことくらいわかっていたが、千人なんていう途方もない数に、頭がくらくらした。 「数え間違いがないように、箱にカウンターをつけてやる。安心しろ」 「千人なんて、そんなに人を殺めるなんて……」  手の中にある石を見ながら弱音を吐くと、男の子は大きなため息をついた。 「まったく。天使の翼はお安くないんだ、それくらいわかるだろう?」  男の子は僕の両手を引っ張り、強引に跪かせてから、首にチョーカーを巻きつけた。 「おまえの浅黒い肌に赤い色が映えて、とても似合ってる」 「…………」 「やらなければ一週間後、この石がおまえの命を奪うだけさ」 「えっ?」  耳を疑う事実に、男の子の顔をまじまじと見つめてしまった。 「当然だろ、この石は俺の能力を持ってる。つまり、エネルギーを欲しているということなんだから」 「そんな――」  力なくその場に座り込んだ。ショックが大きすぎて、目の前が真っ暗になる。 「せいぜい人の命を奪って、長生きすることだな」  カラカラ笑った男の子が、後ずさりしながら闇の中へと消えていく。僕は声を出すこともなく、彼がいなくなったなにもない空間を、漫然と眺めた。首に巻かれたチョーカーは緩いハズなのに、自分の首を締めているように感じる。 (このまま誰も殺めることなく、一週間後におとずれる、己の死を待つべしなのか? それともマリカと新天地で暮らすために、このあと千人殺めまくる日々を送る……)  考えながら、利き手で石を握りしめた。氷のようなひんやりした冷たさを持つ赤い石を自身の熱であたためるように、ぎゅっと握る。 「マリカ――」  僕が天使の翼を持ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。カビール様の妾になって、疲れきったマリカを連れ出してあげると手を差し伸べたら、きっと彼女は喜んでついて来てくれるハズ。 「よし、決めた!」  人を殺める罪悪感を払拭する勢いで立ち上がり、自宅に向けて歩き出した。最初に殺めることになる人物は、もう既に決まってる。  毎日の売り上げ金を懐に入れて、日々楽しく暮らす両親。彼らとの縁を断ち切るために、僕は石を握りしめたまま、親のもとに向かったのだった。
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