最初から最後まで

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☆☆彡.。  両親の暮らす見慣れた質素なテント前に到着したのは、夜明け前だった。いつものように中に入ると、テントの隅っこで仲良く並んで寝ている姿が目に留まる。  僕はチョーカーを首から外しながら、ベッドの上に横たわる彼らに近づいた。 「父さん、起きて。父さん!」  声をかけながら体を強く揺さぶると、眠そうな顔で僕を見上げる。 「んあ? なんだこんな夜更けに」 「これを見てほしいんだ」  考える隙を与えずに、目の前に赤い石を見せつけた瞬間、父さんは苦しげな顔をしながら胸元を押さえて、そのまま白目を剥いて絶命する。やけにあっさりした死を目の前にしたせいか、妙に落ち着いていられた。 「母さん、起きて大変だ。父さんが変なんだ」  今度は隣で寝てる母さんの体に手をかけて、ゆさゆさ揺り起こす。 「うるさいね、まったく。父さんがどうしたんだい?」 「これを見て……」  起き上がって眠そうに目を擦る母さんの顔の前に、赤い石を掲げた。隣で死んでる父さんを見る前に、母さんは必然的にそれを見ることになる。  すると父さんと同じように胸元を握りしめ、くたっとベッドに倒れ込んだ。やがてふたりの口元から白い煙が出てきて、光り輝く真っ白な玉になった。  僕の足元に音のなく現れた黒い箱に、ふたつの玉が勢いよく吸い込まれ、蓋がゆっくり閉じられる。漆黒の箱の蓋の上部に『2』という数字が金色で浮かびあがった。 「おめでとう、ハサン」 「ヒッ!」  背後からかけられた声に驚き、変な声を出して飛び上がってしまった。恐るおそる振り返ると、男の子がテントの中にいた。 「俺の力を引き継ぎ、夢に向けて進むんだな」 「僕の夢……?」 「めでたい門出に、なにかプレゼントしてやろう。好きなものを言ってみろ、用意してやるぞ?」 「用意してやるぞと言われても――」  自分が殺めた両親を前にしてるのに、罪悪感がまったく沸き起こらない。むしろスッキリした感があるのは、これから彼らに虐げられることなく、自由に生きていけることが理由だろう。 「僕としては両親を殺した以上、この土地に長居することはできません。外にある店を移動できるように、改造することは可能でしょうか?」  このあと、僕がしなければならないこと――そして自分の夢を叶えるために、人を殺め続けなければならないことなど、頭の中でいろいろ思考する。 「おもしろいことを考えたな。改造については、今日半日時間をくれ。やってみせよう」 「ありがとうございます。僕はこれから、両親を共同墓地に埋葬してきます」  身寄りがなかったりお金のない平民の墓地は、大抵共同で埋葬されることになっていた。  隣近所との付き合いもほとんどなく、彼らが仲がいいのは、酒場に出入りしているアルコール依存症の人や賭博所に通うギャンブラーばかり。いきなり両親が消えたところで、悲しむ人はもちろん、怪しむ人は誰もいないと思った。  淡々と両親の遺体の埋葬を終えたタイミングで、男の子がひょっこり現れる。 「ラクダで店を移動できるように、うまいこと作ってやったぞ。とりあえず確認してみてくれ」  得意げに言った男の子に導かれて、店のある場所に赴くと、そこは建物が綺麗さっぱりなくなっていて、大きな荷車がついた店舗と、それを引くラクダがあるだけだった。 「中で飲み食いできなくなったが、折り畳みできるパラソル付きのテーブルと椅子を3セット天井にくっつけておいた。調理するスペースももとの店舗と、同じくらいの広さにしておいたが大丈夫か?」  荷車に乗り込みながら説明を受けつつ、あちこちチェックしてみた。 「至れり尽くせりと言ったところです。ありがとうございました」  新品のシンクに触れてお礼を告げたら、男の子は胸の前に両腕を組み、にんまり笑った。 「何年かかるかわからないが、おまえがやりきることを期待してる。がんばれよ」  男の子が小さく右手をあげた瞬間、足元から黒い霧のようなものが現れ、それに紛れる感じでいなくなってしまった。 「本当に何年かかるんだろうな……。でもやるしかないんだ、マリカを手に入れるために」  店舗から勢いよく飛び出し、ラクダに跨ってあてのない旅路に出発する。住み慣れた土地から離れることは寂しかったけど、天使の翼を手に入れるためにまっすぐ前に進み続けた。
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