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目の前は砂漠、背後は若干の緑地帯。そこを行き交う人々を相手に、たくさんの店が商売を営む。
《オアシス》という、やけにあっさりした店名で、細々と果実のジュースを売ってるウチの店もそのひとつ。特に砂漠からやって来る客が喉を潤わせるために、来店してくれる。
カウンターでオーダーを取って、前払いでお金をいただき、その後ひとつずつ手絞りでジュースを作って、お客様が寛いでいる涼しげな店内に運ぶシステムだった。
「いらっしゃいませー、こちらでメニューをお伺いします!」
いつものようにジュースを作る手を止めて、お客様がわかりやすいように、右手をあげながら声をかける。
入店してきたのは、若い女性客ふたり。ひとりは薄地の白いベールを頭から被り、顔が見えないようにほどこしていた。たぶん、お貴族様なのだろう。一般人がたむろする店に出入りするとき、高貴な女性はこうして身元がわかりにくいようにするのが、ここら辺の習わしだった。
「マリカ様、こちらがメニュー表になっているようです」
カウンターに到着したふたりは、困惑する様子もなく、お付きの女性がリードしてくれるおかげで、店員の僕が声をかけなくても良さそうだった。
「たくさんあるのね。ここのオススメはなにかしら?」
メニュー表から顔をあげた、マリカ様と呼ばれたお方。ベールの上からでもわかる綺麗な銀髪と、色違いの左右の瞳が印象的で、思わず息を飲んだ。
「店員さん?」
「すみませんっ! オススメはですね、毎日朝市から仕入れている、レモンを使ったジュースになります!」
「それじゃあ、それをひとつくださる? ルーシアも好きなのを頼みなさい」
「ありがとうございます。なににしようかな」
お付きの女性が、嬉しそうな面持ちでメニュー表をのぞき込みながら迷っている最中に、マリカ様が僕の顔をじっと見つめた。
「店員さんの瞳、とても綺麗ね。宝石のアメシストのよう。だけど色の感じは、バイオレット・サファイアに近いかしら」
どちらの宝石も見たことのないものなので、こうして褒められても、リアクションに困ってしまった。
「あ、ありがとうございます。そんなふうに褒められたことがないので、なんだかくすぐったいです」
後頭部を掻きながら照れたら、目の前でコロコロ笑う。ここにいる野郎どもの豪快な笑い方とは真逆な、とても静かな笑い。お貴族様特有のものなのかもしれないが、とてもかわいらしく見えた。
「マリカ様、ルーシアはマンゴーにします!」
「店員さんのオススメとマンゴージュース、よろしくね。ルーシア、お代を。お釣りはチップとして受け取ってちょうだい」
気前のいいマリカ様とお付きの女性は、奥まった席に腰をかけて、自分たちが来たであろう緑地帯の景色を眺める。緑地帯の奥に都市が形成されているため、砂漠からやって来るお客様と都市からやって来るお客様は、一目でわかるんだ。
ひとりきりで店を切り盛りしているため、彼女たちを物珍しげに眺める暇もなく、急いで先客のジュースを作るために、精を出したのだった。
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