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2.名前
聞かなくても分かってたけどな、戸本の悩み。
バーのカウンターに突っ伏して酔いつぶれている戸本を眺めながら、隣で酒を飲む。
こいつは、飄々と楽し気に生きているが、既婚者に惚れるという、どうしようもない事態に陥っている。
なんでだよ?としか言いようがない。
顔もスタイルも要領も良くて、いくらでも女が寄ってくるタイプの戸本なら、リスクも障害もない相手がいくらでもいるだろうに。
「全然違う。あの人は、他の人とは全然違う。」
ブツブツ呟く戸本は、情けなさを全身で表現することに挑戦しているかのように、この上なく情けない。
「進展も後退もしてないのに、2,3ヶ月に一度、戸本がガクンと落ちるのはなんでなの?」
俺の質問に戸本が顔をあげ、そのまま上半身も起こして椅子の背にもたれかかる。
「痛感すんだよ。あの人の世界に俺はいない。虫ケラみたいな気分だ。」
「虫ケラだって夢と希望を持って努力して生きてるんだ。バカにすんな。」
「モテ男の田口に虫ケラの気持ちなんて分からんだろう。」
「女引き寄せる磁場と化しているお前が言うか?」
俺の言葉を無視して、戸本が背中を後ろにそらせた。
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