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部屋の前から手を大きく振り呼びかけたおかげで、車から降りたばかりの救急隊員は、要請場所がこの部屋であることをすぐにわかってくれたようだった。
翔一は「こっちです、お願いしますっ」とさらに手を振り、手招きした。
ひとりが急いで階段を駆け上がって来る。バッグを肩にかけ、腰にはポシェットを着けている。細身で、歳は四十代くらいの救急隊員だった。翔一は「お願いします」とドアを開ける。
招き入れられた救急隊員は「お邪魔します」とひと言言い、玄関で素早く靴を脱いだ。
翔一は「すぐそこです」と母の居場所を教える。母はうつ伏せのまま、ぐったりと横たわっていた。
救急隊員は足早に近寄ると、かがみこんで母の耳元に顔を近づけた。
「おくさあん、大丈夫ですかあっ」
応答がなかったので「おくさあん」と再度呼びかける。反応はなかった。
「おくさあん」
救急隊員は、今度は肩に軽く触れ、叩いた。
再三の呼びかけにも母は反応しなかった。
救急隊員は母の手首を握り、自分の腕時計と交互に母を見る。脈拍を取っているのだとわかった。
この時になってようやく翔一は、救急隊員の風貌を確認した。
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