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「隊長、到着しました」と先に入った精悍な隊員に告げると、「どっこいしょ」という掛け声とともに銀色の箱を床に置いた。隊長と同じくらいの年齢か、年上に見える。余裕のある態度から、べテランらしいと推測した。若い隊員に「慌てるなよ」と小声で言っているのが聞こえた。  銀色の箱は、もう少し長方形だったら、現金が入っているのだろうと思わせる、ジュラルミンケースのような外観だった。  隊長は黙って頷き「意識レベル二〇〇、人工呼吸の準備」とやや厳しい口調で言った。  人工呼吸って、おい、そんなに具合が悪いのかと翔一は更に不安になった。  母は、呼吸のたびに小さなうなり声を発している。  隊長と呼ばれた精悍な顔の救急隊員は銀色の箱を開け、透明の、お椀のようなマスクを取り出し、ホースをつないだ。長さ一メートル弱、幅二十センチほどの銀色の箱の中には、黒く塗られたボンベが入っていた。  翔一は、ボンベをいじっている隊長から「息子さんですね」と声を掛けられた。  この場面で高校生にむかって、馬鹿に丁寧な言葉遣いをするものだなと翔一は思った。
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