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「変化ありません」若い隊員が、母の口に透明のマスクを被せる。
「これで酸素を送るんだよ」母の脈拍を計りながら隊長が教えてくれた。マスクにつながるチューブの先は、黒いボンベだった。
「母さん、やばいんですか?」
隊長が翔一をじっと見つめた。
「いや、まだ病院に行ってしっかり検査してもらわないと。ここで観察しただけでは、はっきり分からない」
「よろしくお願いします」翔一は頭を下げた。
「保険証とかわかるかな。あったら持ってきてください」
若い隊員に言われ、翔一は、さっき自分も探していたことを思い出した。目ぼしいところが思いつかない。
汗が全身に吹き出す。心臓は波打つ。落ち着け、と自分に言い聞かせる。
あれこれと考え、母の財布をもう一度見てみることにした。
「ポンプ到着っ」
声のした玄関に行くと、紺色の服を着た消防隊員が数名入ってきたことで翔一は驚いた。「え、ち、違う、火事じゃないですよ、呼んでないし」思わず言ってしまった。
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