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 おっさん救急隊員が慌てて近寄ってきて「いやいやいや、大丈夫。大丈夫だから。これはね、救急隊が病人や怪我人を運び出す時に人手が必要なときは、こうしてポンプ隊が応援にやって来るんですよ。知っていると思いますが、救急隊もポンプ隊も消防署から出動するんです。仲間の連係プレーっていうヤツです」 「消防も年寄りが多くってさ」  紺色の消防隊員は、溜息交じりに呟くように言った。  翔一は、そうなんですかと頷くしかなかった。  消防隊員らは、次々と靴を脱ぎ家へ入ってくる。  母のところへ戻ると、銀色のケースに入っているボンベから管がつながっており、管の先にあるお椀状の透明マスクが母の口を覆っていた。酸素が送られているのだろう。母が呼吸するたびにマスクが白くなったり透明になったりしている。  若い隊員は、セットを終えた銀色の箱のふたを閉じている。 「心肺停止じゃないから背板はいらないよ」  隊長に言われたおっさん隊員は「だよね」とだるそうに言い、オレンジの分厚い板を拾い上げ、脇に抱えた。 「じゃあ、搬送しますので、準備をお願いします」  隊長が自分で納得したように頷く。
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