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 病院到着までの道のりは長かった。実際は赤信号など関係なく進むのであるから、一般走行よりは早いはずなのだが、一分が五分にも、十分にも感じられた。 「で、お母さんが倒れた時の状況を話してくれるかな」  精悍な顔をした隊長が訊いてきた。  え、と翔一は戸惑った。思わず目を伏せる。 「病院に着いたら、医者や看護師に伝えなきゃならないんだ。こうなった経緯をね。倒れたところ、見てなかったのかな」 「い、いえ」  じゃあ、と隊長は「大体でいい。思い出せるだけでいいよ」と促す。  そういうことではなかった。  本当のことを言うべきか、適当に取り繕って言おうか、それを考えているのだ。  ええい、誤魔化そうとしてもいつかは分かってしまうのだ。正直に言おうと翔一は決心した。  顔を上げる。「あ、あの」 「思い出したかい」気を抜くと吸い込まれてしまいそうな目だった。  翔一は、ごくりとつばを飲み込む。 「じつは、突き飛ばしたんです。俺」  バインダーに目を落としていた救急隊員が顔を上げた。 「突き飛ばした、とは」  翔一は、断片的に浮かんでくる記憶を整理しながら、母が倒れるまでの経緯を話した。
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