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目の前には母が横たわっている。「う、ううう」と呻(うめ)いている。
まぎれもなく現実だ。
ちくしょう。
まだ頭はびりびりしている。目がかすむ。なにくそと思い前へ動こうとするのだが、脳からの指令は足まで届いていないらしい。立っていることが精一杯で、身体を動かそうと思っても全く反応しない。
俺は、これから何をしたらいいのだと考えるが、そこから先の考えが、全くまとまらない。
思考回路は短絡し、停止した。きーんという甲高い音がどこからともなく発生し、頭の
中を支配している。
2DKのアパート。玄関わきの台所で、翔一は立ち尽くしたままだ。
母親は、糸が切れた操り人形のように、ぐったりと翔一の目の前で倒れ伏している。
動かなくなった。
呻き声も聞こえなくなった。
(や、やばい)
この直感に呼応した翔一の鼓動は、火事を知らせる半鐘の音のように激しく高鳴った。心臓が胸を突き破って出てきそうな勢いだ。
瞬きを繰り返し、母を凝視する。わずかだが動いている。翔一は、ごくりとつばを飲み込む。
ど、どど、どうしたら、いいのだ。
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