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 運転席から胡麻塩頭の内山田が、前を向いたまま大きな声を出した。七福神の恵比寿様が少しやせたようなイメージ。それでも腹回りの肉付きが最近目立ってきたと本人は言っている。五十三歳。ギャンブルなら何でもやる救急救命士。救急隊員歴二十八年の超ベテランだ。 「誰って、胸に手を当てて考えたらわかるでしょう」  下田はわざとらしく内山田から視線をそらして独り言のようにつぶやく。内山田は大仰な動作で胸に手を当てる。 「わかんねえ」  下田は苦笑しながら足元にあるサイレンのスイッチを踏み、約二秒、吹鳴させた。連鎖反応のように他の車両からもサイレン音が聞こえてくる。  頬の筋肉を緩ませたまま、下田が翔一の顔を見た。 「ベテラン並みの働きは期待しない。基本に従って行動すること。わからなかったら指示を仰ぐこと、だ」 「はいっ、よろしくお願いしますっ」  翔一は、素直に頭を下げた。
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