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 テーブルに置いてある時計は十五時三十分。焼肉屋でパートをしている母が、出勤する時刻だ。  母が出かける直前に話そうと思い、翔一は切り出したのだった。俺もバイトをすることにした、と。  母は出勤前にシャワーを浴びる。そのあと髪を乾かしたり、化粧したりで忙しくなる。時間に追われて話しかけても上の空で応える。だからその忙しいときに便乗し、言いたいことをさっと言ってしまって、そのまま出かければいいと考えていた。  うちは母子家庭だ。家計が苦しいのは分かっている。自分はこの度めでたく高校生になったので、これからは自分も働いて、少しでも母の負担を軽くしてやるのだと思い立った。一週間前に自分で仕事を探し、決めてきた。しかし、このことを言えば、新生活も落ち着かないうちに何を言っているのだと反対されるかもしれないという危惧もあり、なかなか切り出す機会がなく、出勤初日を迎えてしまった。黙って出ていくこともできず、かといってきちんと説明することもできす、結局どさくさまぎれに「今からバイトだから。行ってきます」とだけ告げ、デイパック片手にアパートを出ようとしたところを呼び止められた。
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