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交代時点検も終盤に入ったころ、翔一の胸ポケットでスマホが震えた。
ポンプ隊は、車載の投光器とかエンジンカッターとかを点検しているが、救急隊は概終了している。他隊の点検が終わるまで待機している時だった。
下田は、少し前に車から降りてどこかへ行った。周りに誰もいないことを確認し、スマホを取り出すと、メール着信の知らせだった。翔一はスライドドアを開け、車内後部座席に乗り込んだ。
〈救急隊員おめでとう。やっと夢が叶ったね、がんばってね〉
藤倉志乃 からのメールだった。坂の上消防署に勤務している高校の同級生であり、消防職員としても同期生である。消防学校卒業後、彼女は坂の上消防署に配属された。
実は志乃とは高校二年生の夏から交際している。お互いに進路を相談し合ううちに、深く付き合うようになった。髪が長く切れ長の目をしている美人、ではない。つぶらな瞳で童顔。おっとりしているように見えるが、口元はきりりと締まっており、意外に芯はしっかりしている。
「彼女からメールかよ」
「げ」
目ざとく気づいた内山田が、運転席から身体ごと反転させ翔一に向いた。誰もいないと思ったのに、気配を感じさせないとは、なんという人だ。全く気付かなかった。
「ち、違います、迷惑メールっす、何でもないです」
翔一は動揺を悟らせまいと必死に平静を保ち、無表情で、スマホを素早く胸ポケットに入れる。
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