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「隠さなくたっていいんだぜ、坂の上消防署の彼女だろ」内山田は、子供のいたずらを見つけた親のように、猫なで声を出した。目が、ひっくり返った三日月になっている。 「な、なんで、知ってるんすかっ」翔一の身体は、一気に熱を持った。同時に、心臓が大きく波打ち始める。 「しっ、声がでかいよっ」  内山田は人差し指を立て口に当てたまま、両方の目尻をさらに下げた。 「なんで知ってるんすか」  翔一は、顔が熱くなるのを感じながら、勤めて声量を抑えた。 「壁に耳あり障子に目あり、ってえところだ。ちなみにこのことは、署員のほとんどが知ってるぜ」  え、と翔一は一瞬言葉に詰まった。「誰にも言ってないのに」と鼻息を荒くし、唸る。  内山田は「甘い甘い」と人差し指を立てて揺らした。 「いまは情報社会だぜ、情報をいかに的確に捉え、活用するか。消防活動だって、救急活動だって、同じことだ」 「それって、なんか違うと思うんすけど」 「で、お前らは何処まで行ったんだ、結婚するのか?」  内山田は、翔一の言葉に耳はかさない。 「な、何を朝から言ってるんですかっ」  意表をつかれた質問に、翔一は完全に動揺してしまった。 「しっ、声が大きいって言ってるだろ。いいか、これは大事なことだ。これからご祝儀の準備をしなくちゃあならないかもしれないんだからな」  内山田はいたって冷静な表情を保っている。 「だからあ、何にもしてませんって。ご祝儀も必要ありませんって」
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