7/23

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
 ほんの二三言を言うだけなのに、スムーズに言葉が出てこない。言うべきことを頭の中で整理できていない。まとまらない。自分が何を言っているのかわからなくなる。落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせる。 「病気ですか怪我ですか?」 「け、怪我、です。頭を打ったみたいです」 「転んだのですか? お母さんはおいくつですか? 病気は、持病はありましたか?」  たたみ掛けるように次から次へと質問された。そんなことはいいじゃないか、早く来てくれと思う。 「歳は、ええと、確か三十五か六です、病気はわかりません、ないと思います」翔一は母に視線を移す。  三十代も半ばなのに、PTAでは「お姉さんですか」と間違われるほど母は童顔で若々しい。スタイルもいい。はつらつとしていて色気もある。家事に追われ、生活色を前面に出している同級生たちの母親と比べれば、雲泥の差があった。実際同級生にも羨ましがられている。自分にとって内心自慢の母であったが、今はその面影も見られない。 「ではそこの住所を教えてください」と言われて我に返り、翔一はたどたどしい口調で告げた。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加