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 不安が鎖となって身体に巻きつき、ぎこちない動きになる。 「母さん、救急車が来るからねっ、俺、呼んだからねっ」  今度は返事がなかった。母はうずくまったままだった。  動かそうとしたのだが、通報した際に、むやみに動かさないこと、呼吸が楽にできるような姿勢にすることなど、言われたことを思い出し、試みようとしたが、やめた。下手に動かして、おかしなことになったらヤバい。  そうだ、とにかく金、それと保険証だ。  母の財布をバッグから見つけ、中身を確認した。二万円入っている。とりあえず何とかなるだろう。保険証はどこだと茶箪笥の引き出しを開けたが、見つからない。天井を仰いだとき、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。翔一は反射的に母を見る。まだうつ伏せの状態で横たわったままである。 「母さんっ、救急車来たよっ、もうすぐだよっ」  翔一は、うずくまったままの母親に声をかけると身体を反転させ、救急隊を迎えるために玄関へ走った。  履物も履かずに勢いよくドアを開け、外へ出る。  瞬く赤い光が目に飛び込んできた。 「こっちですっ」
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