演じる

ある日、職場の女の子たちと休日偶然にスーパーでばったりあってテラス席でコーヒーを飲みながら話をした。

「だいぶ暖かくなってきたね」
「本当」

森さんはこちらをみるでもなくコーヒーを呑んでいた。
その姿が妙に可愛くみえたのだった。

もう少しだけ親密になりたい。

今思えばそれは魔が差したと言ってよかった。

僕はポケットに忍ばせていたボールペンで手早く携帯番号を書くと彼女に見えるところにメモを置いた。

彼女は小さく「うん？」と言うとこちらをみるでもなく紙をポケットにしまったのだった。

それから何事もなかったように
「また明日〜」と言って別れたのだった。

それからの夜はとても長い時間だった。

時々スマホをみては、妻の目がやけに気になったりもした。

ただ少し、あと少しだけ、親密になりたい。

アドリブのスリルある会話。退屈な仕事の合間の楽しいひととき。

ニンマリとしてスマホから目を離し天井を見つめているうちに寝落ちしてしまった。