異世界で弁当売ってハーレムを

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 物騒な単語と共にリゾットさんが腰を落とす。  ナイフを構えればその肩から気炎が昇る。  間違いない。  これはガチの戦闘態勢。 「冒険者ギルド【駆除チーム】のリゾット。上層部の命令により、魔法使いチョコ・ブラウニーを【駆除】する」 「駆除ってそっちの意味もあるの⁉」 「お前の身体では娼館勤めは難しかろう。臓器を売って返済するしかない。安心しろ。苦しむ瞬間もなくあの世へ送ってやる」 「待った待った待った! ちょっと待った!」  俺をさんざんコキ使い、理不尽にパーティーから追い出し、挙げ句の果てには難癖をつけて商売を潰そうとしたチョコだが――流石に死なれるのは嫌だ。  俺はリゾットさんの前に出ると地面に頭を擦りつけた。 「どうか命だけは勘弁してやってください! 言うほど悪い奴じゃないんです!」 「……ジェロ!」 「なにとぞ温情を!」  戸惑うリゾットさん。  自分は微塵も頭を下げる気のないチョコ。  なぜか元雇用主のために額を地面に擦りつけている俺。  なんだなんだと駆けつける嫁と愛人と愛娘。  騒ぎを聞きつけた冒険者たち。  こんなに注目されたら白昼堂々の殺人とはいくまい。  リゾットさんが「……むぅ」と唸ってナイフを引っ込めた。 「……まぁ、冒険者ギルドとしては違約金を払ってくれれば構わないが」 「分かりました。それじゃ俺が立て替えます」 「……本気か?」 「ミラ! 金庫からお金を出して!」  金貨数枚と銀貨数百枚。  提示された違約金をきっちりとリゾットさんに渡すと、俺は「これでよろしくお願いします」と深々と頭を下げる。  リゾットさんが黙り込む。  だが、最後はいつものように口の端を釣り上げた。 「……分かった。上層部には俺から連絡しておく」 「ありがとうございます!」 「……お人好しもほどほどにしておけ。だが、お前らしいな」  そんな言葉と共にアサシンは音もなく姿を消した。  残されたのは店の稼ぎの大半を性悪女のために差し出した間抜けな男。  そして、さんざんバカにした男に助けられた紫髪のメスガキ。
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