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分からずやのチョコに俺も自分を見失っていた。
小柄なツンデレ魔法使いの前に立って俺は彼女を見下ろしてにらみ据える。
真っ向からにらみ返してくるチョコ。
その瞳には涙が滲んでいた。
なんでそんな顔して突っかかってくるんだよ。
お前が何を考えてるのか、もう分かんねえよ――。
女リーダーの涙顔に俺の中で何かがキレた。
「分かったよ」
「なにが分かったのよ?」
「このパーティーを抜ける。冒険者もやめる。それで満足するんだろ、チョコ?」
俺はパーティー追放を受け入れた。
俺が言うことを聞いたというのに、チョコは驚いた顔をしていた。
まるで夢に見そうな「取り返しのつかないことをしてしまった」という顔を。
「……アンタがこれからどうするのか楽しみだわ。転移者さん」
「あぁそうかよ」
「……惨めに土下座して許しを請うなら家政夫として雇ってあげてもいいけど?」
「そんなことするくらいなら死んだ方がましだ」
「……あっそ! 行くわよみんな! そんな奴、もう放っておきましょう!」
こうして俺――ジェロこと異世界転移者の坂次郎は、転移先の剣と魔法のファンタジーの世界で冒険者パーティーを追放された。
異世界転移して追放される奴とかおりゅ?
転移と共にサクセス&ハーレムストーリーがはじまるもんじゃんよ。
けど、ゲーム転生じゃないから知識チートができないんだな。
そもそも女神から転移特典チートももらってない。
現代人だから冒険者になっても荷物持ちくらいしかできない。
当然の追放なのかもしれない。
いや、もう一つできることがあった――。
食事の準備だ。
鍋の中身に残っている一人分の食事に手をつける。
木製のスプーンで鍋の底をすくうと口に運んだ。
「…………まっず」
乾燥豆と乾燥肉を牛乳で煮たスープ。
この世界ではごく一般的なダンジョン内での食事だが、お世辞にもそれは美味しいとは言えなかった。栄養補給最優先。チョコがキレるのも納得の味だ。
けど、仕方がないじゃない。
この世界にはお弁当とか携帯食とかそういう文化がないんだから。元の世界のように「コンビニ・弁当屋で好きなお弁当を買う」ことができないんだから――。
「待てよ?」
その時、俺は閃いた。
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