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01 悩み
デスクの上にはとても他人には見せられないような光景が広がっていた。
社内で割り当てられた自分のデスク上に、里帆里帆は買ってきたものを並べた。並べて眺めていれば良いアイディアが浮かぶ……などとは思えないけれど、そうするしかなかったのだ。
オイル各種にベッド用の香水や避妊具、それから、バイブとローター。
最近では女性でも使いやすいかわいい色合いのものばかりが増えているらしい。ここまで近くで見るのは初めてなので、特にバイブやローターなんかは見ているだけでもいろいろなことを想像してしまう。でも今の里帆にとっては心がざわつくほうが強く、大きなため息を吐いてデスクに突っ伏す。その時バイブに腕がぶつかり、ゴトンと重量のある音が響いた。
「四宮四宮ー、ミーティング始まるよ」
「あ、はい!」
慌てて立ち上がり、ノートパソコンを手に取る。デスクの上に並んだいやらしいものたちを一瞥してから会議室へ向かった。
「今日の議題は、先日発表があった新規プロジェクトについて。新しい展開にみんな戸惑っているかと思うけど、今後うちの部だけでなく会社全体が成長するための重要なプロジェクトよ。心して取り掛かってね」
会議の開始直後、部長が仰々しく告げる。女性の部長というのは、化粧品メーカーという業界では珍しくもなく、見惚れるほどきれいな人も多い。里帆も身だしなみには気を付けているけれど、部長たちには程遠い。会議室は二十人用で、そこそこ広く、イスはすべて埋まっている。里帆が所属する開発部のメンバーだ。男女ともにいるけれど、女性のほうが多い。
部長がプロジェクターに映した資料には里帆の名前があった。わかっていたことだけど気が重くなる。
「プロジェクトリーダーは四宮、それからメンバーは七人体制。九月のリリースに向けてがんばってね」
部長にキリッとした視線を向けられて、弱々しくうなずいた。
「コンセプトは『可愛いのに刺激的』『恋人同士の甘い刺激』で、今までのノウハウを生かして他社との違いを表現しましょう」
先ほど机の上に並べていたのは他社のものだ。有名なメーカーのものをネットで購入し、会社で荷物を受け取り開封した。売れていてレビューの評価が高いものばかりだったが、里帆にはまだ良いところを見つけることもできていない。
「はい、リーダー一言」
部長の切れ長の目が里帆を射抜く。女性社会の中で勝ち抜いてきた逆らえない視線にドキリとする。
里帆はおずおずと立ち上がり、会議室全体を見回しながら口を開いた。中には後輩はもちろん、先輩もいるなかで里帆がリーダーということもあり見知った仲間とはいえ緊張が走る。
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