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数年経っても、亘のそういうところが変わっていなくて安心する。「いいお兄ちゃん」だ。一瞬意識した自分が恥ずかしくなった。
「……じゃあ、亘くんの家にお邪魔しようかな」
「そうか? 無理しなくていいからな」
「誘っておいて、なにそれ。無理してないよ」
つい笑ってしまった。
「むしろ亘くんの迷惑じゃない? ……恋人、とか」
恐る恐るたずねる。亘から提案してくれたことだからきっと恋人がいないとは思うけれど、優しい彼のことだ。「妹」としても里帆を家に誘うことはあり得る。
「恋人か……情けないけどいないよ。気遣いありがとな」
ほっと息を吐く。
恋人がいないことへの安堵ではない……と思いたい。
「あんまり眠れてないみたいだし、今日はゆっくり泊まって行けよ」
「……うん、ありがとう」
再会してすぐに亘の家に行くことになり、里帆は少し緊張していたが、亘の表情をのぞき見ると彼の表情はなにも変わらないので、本当になんとも思っていないんだろう。里帆も、数年前に振られて、こちらを一ミリも意識しないような人をいつまでも意識していることはできない。
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