38 告白

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38 告白

「……四宮さん、どうぞ」 「……はい」  カウンセリングルームのソファで待っていると、奥の部屋のドアが開かれて亘に呼ばれた。予約時に名前は見ているだろうから驚いている様子はなく、ただ少し困惑が見えた。してやった気になって里帆は部屋に入っていく。  この場所に来るのも久しぶりだ。忙しくてカウンセリングどころではなかったし、安定していた。亘に別れを告げられる前までは。 「……今日はどうされましたか?」  里帆はソファに腰かけ、正面に座った亘が仕事の顔で聞いてくる。 「はい。最近うまく眠れなくて」 「……そうですか……仕事の調子はどうですか?」 「順調です。相談させてもらっていたプロジェクトもあとはリリースを控えるだけになりましたし、なにも不安な部分はありません」 「……じゃあ他に悩みが?」  里帆はこくりとうなずいた。 「恋愛の、ことで」 「……っ」  亘の前で話すには勇気がいる。亘が当事者だからだ。里帆は緊張して震える右手を片方の手で押さえて誤魔化した。 「そういう話は、社内カウンセリングではなく……」 「でも社内での話です。いけませんか?」 「い、いえ。大丈夫です。続けて」  亘は動揺している。里帆がなにを言い出すんじゃないかと、不安なのだろう。里帆も、亘の反応が不安でしょうがない。  里帆は一呼吸おいてから口を開く。 「恋人の真似事をしている人がいたんですけど、振られてしまって……私が好きだと言うと、それは勘違いだと決めつけるんです」  亘のことが好きだからこそ、悲しくてつらかった。納得もいかなかった。だからこれは当てつけだ。 「彼も好きだと言ってくれたのに、私が自分の気持ちに気づくのが遅れたせいでしょうか。だから彼は心変わりして……」 「違う、それは――」  亘が一瞬身を乗り出したが、冷静になり座り直した。 「……違うと思います。そうではなくて、四宮さんの気持ちは憧れからくるものかと」 「違います。憧れているという気持ちはあるけど、それ以上に恋をしてます。勘違いなんかじゃない。なのにどうして彼は信じてくれないの……」  徐々に里帆はうつむいてしまった。亘の気持ちを知りたいのに、知るのが怖くなった。何度振られても失恋はつらい。 「不安なんだ」 「……え」  亘の小さな声がして顔を上げると、亘の表情が崩れていた。仕事の顔ではなくなっていた。苦しげにしながらも里帆の目をまっすぐ見る。
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