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「もし里帆の気持ちが勘違いだったら、俺はどうすればいい? 浮かれた気持ちをどう処理すれば」
「そんなの、私だって同じだったよ。再会してやっぱりまた好きになって、告白するのだって怖かった。振られるのはしかたないと思うよ。でもなのに信じてもらえないなんて、こんなこと……っ」
あんまりだ。
里帆は我慢できずに涙をぽろぽろとこぼしていた。この場所で泣きたくなかったのに。泣いたら亘は慰めてくれるのがわかっていたから。
「……里帆ごめん、泣かないで」
亘は立ち上がり、里帆の隣に腰かけ頭を撫でる。振るんだったらもうやさしくしないでほしいと思うのに、やさしくされるとうれしさが勝つ。それもまた悔しかった。
里帆は顔を上げて涙目のまま亘のほうを向く。
「私は今亘くんのことで眠れないんだから、責任とってよ」
「……どうすればいい?」
「…………キス、して」
「っ、それは」
亘は目をまるくした。
「……私とはしてくれないよね。あの女の人とはしたのに」
「女の人?」
「前に見たの。亘くんに会いにカウンセリングルームに来たら……女の人と抱き合ってるの。女の人が、もっとキスして、って言ってた」
「……ああ」
亘が合点のいった顔をする。その顔にまたショックを受けた。
「ほらやっぱり。私のことが好きとか以前に、他にいるんでしょう?」
「違うよ」
里帆の言葉を遮り、亘ははっきりと言い放つ。
「あの人は、前食堂で会った秘書の小林さん。まあ……すごい積極的で困ったんだけど、ちゃんと断ってる」
「で、でもそれなら「もっと」って言う? だから私、キスしてたのかと……」
「してないよ。あんまり覚えてないけど、ずっと俺が彼女に対して遠慮してるんだと勘違いしてたみたいだよ。好きなのに手出してこないからチャンスをあげるって」
亘は苦笑していた。
あの時キスをしていなかったのならよかった。それならどうしてこんなに頑ななのか。
「……それなら、他にいい人がいるの?」
里帆は涙目になりながらも彼をじっと見つめる。最後までちゃんと向き合うと決めた。仕事と同じくらい、大切なことだ。
「いないよ」
里帆はそっと亘の手に手を重ねた。彼はぴくりと動いたけれど逃げはしなかった。
「ねえ、亘くんは私のことは好きじゃない? 今度こそ諦めなきゃだめ? キスも……してくれない?」
自分で言ってて悲しくなる。
これだけ伝えても拒否をされたら今度こそ立ち直れない。でも亘はそれでも慰めてくれると思うから、めいいっぱい甘えてしまおうと決めた。
そして、ちゃんとさよならする。
じっと亘を見つめていると、彼はため息を吐いた。
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